アモーダル・サスペンション―飛びかう光のメッセージ

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概要

「アモーダル・サスペンション」は、携帯電話やウェブ・ブラウザ経由でwww.amodal.netにアクセスいただき、送られたショートテキストメッセージにより成立する大規模なインタラクティブ・プロジェクトです。メッセージによるコミュニケーションは文字として直接届けられるのではなく、20個のロボット制御されたサーチライトの点滅にいったん変換され、YCAMおよびその周辺の空に光の網の目を出現させます。

光が点滅する信号は、モールス信号や蛍の交信にたとえられ、光の強度は送信されたテキストの文字ごとに異なります。それぞれのメッセージは、いったんコード化されると山口の空に「サスペンド」され(とどまり)、YCAM周辺に設置されたサーチライトから別のサーチライトへと飛びかいます。誰か特定の人に宛てて送られたメールは、「山口の上空にメッセージが受け取られるのを待ちながら浮遊している」ことを、メッセージが宛てられた方に伝えます。

それぞれの光のシークエンスは、指定された受信者、もしくは別の誰かがそのメッセージを「キャッチ」し読むまで、ずっと空を循環し続けます。メッセージをキャッチするには、再度www.amodal.netにアクセスしてください。このプロジェクトでは、メッセージを日英で自動翻訳しています。その結果受信者は、つたなくも魅力的な(翻訳)メッセージを受け取ることになるでしょう。そこにはアーティストの、グローバル化へのささやかな皮肉がこめられています。

参加者によりメッセージがキャッチされ読まれると、メッセージは空から消え、YCAMの建物外壁の巨大なプロジェクションにしばらくの間表示されます。またメッセージの送信者には、送ったメッセージが誰かに読まれたことが通知されます。読まれたすべてのメッセージは、プロジェクトのウェブサイトに3Dのオンライン・アーカイブとしてとどまります。このアーカイブは、それぞれのテキストがブラウン運動を続ける粒子のように動くダイナミックなオンライン・ヴァーチャル環境で、そこでは蓄積されたテキストの検索、ソート、ナビゲートなどをすることができます。

「アモーダル・サスペンション―飛びかう光のメッセージ」は、山口の上空にインタラクティヴな光の編み目―書きこまれ、また読まれうる浮遊するデータの「雲」―を形成します。この作品は、地元の人々と遠く離れたさまざまな地域や国々からの参加者が、特別な関係を結ぶことができる連結的なプラットフォームを提供します。それは都市空間において情報のトラフィックが可視化するとともに、本来、目に見えないはずの電子コミュニケーションを可視化することでもあるのです。

140,000ワットの電力と半径15Kmの範囲で見ることができる「アモーダル・サスペンション」は、インターネットのヴァーチャル空間、携帯電話のリレーショナルな空間、そして情報の波形をあらわしたYCAMの外観や、YCAMが位置する山口の山並みの空間の融合を試みています。このプロジェクトは、2003年11月1日から24日までの約3週間、毎晩日暮れから明け方まで開催されます。

 

 


アモーダル・サスペンション
オリジナルコンセプトイメージ


実際のインスタレーション

メッセージの流れ

プロジェクトのウェブサイトにアクセスして「参加」へと進んでください。ブラウザがJavaアプレットをロードし、YCAMとその周辺上空で起こっている光の状況をウィンドウ上のリアルタイムな3D映像でご覧いただけます。またマウスのドラッグやナビゲーションツールを使うことで、3D画面の視点を変えることもできます。

メッセージを送信するには、ご自分のお名前と現在地を入力してください。ご自分の送信したメッセージがキャッチされ読まれたことを知りたい場合は、メール・アドレスも入れてください。どなたか特定の方にメッセージを送りたい場合は、その方のメール・アドレスを右下の欄に入力いただくと、プロジェクトのウェブサイトにアクセスして、自分宛のメッセージを取り出してもらうようその方に連絡が入ります。すべてのメッセージは公共的なものであり誰でも読むことができますが、個人のメール・アドレスは公開されません。

メッセージをキャッチするには、3Dウィンドウの下にある「キャッチ・ツール」を選択してください。カーソルを光のラインの上に動かすと、そのメッセージを送信した人の名前と場所を見ることができます。キャッチ・ツールを使って光の上をクリックするとメッセージがあなたの前にあらわれ、送信者にあなたが開封したことを伝えます。メッセージは、読まれると同時に空から消え、YCAM建物側面に投影され、また過去に読まれたメッセージとともにインタラクティブな3Dメッセージ・アーカイブとしてウェブサイトおよびYCAMに設置された端末で体験いただけます。メッセージが読まれると、新たなメッセージが光となって循環しはじめます。

コンセプトイメージ


実際の模様

デザイン・ノート

飛びかうメッセージは、バックミンスター・フラーの「テンセグリティ」概念から発想されたアモーダル(特定のモードや形態にとどまらない)なパターンを形成しており、設置されたサーチライトのすべてのノード上にインフォメーションを配信することを試みています。

終わりなくさまよい続けるメッセージは、ホルヘ・ルイス・ボルヘスの文学作品に見られる迷宮的循環や、おみくじを願かけで結ぶ日本の伝統から発想されています。

テキスト・メッセージの光の点滅へのコード化は、毎秒日本語2文字、ローマ字4文字というひじょうに遅いものです。しかしこの「遅さ」こそが、逆にこの作品の魅力といえます。光の点滅は、(文字内容は判別できないものの)肉眼で見ることができるリズムと速度を持っています。ここで見ることができるのは、ストーリーではなく、メッセージの密度なのです。「効率的」な情報の転送が目的なら、毎秒1.5ギガバイトのデータを転送可能なレーザー光線が適しているでしょう。しかしそのように効率を追求する必要はあるのでしょうか。このプロジェクトはコミュニケーションについてのものではなく、関係性についてのものであり、コミュニケーションを都市のレベルへと、またそれを感知できるものへと減速していく試みといえるのです。

メッセージは公共的なものであり、誰もが読むことができます―たとえ誰か特定の人に宛てられたものだとしても。2人の人が互いにメッセージを送信した場合、メッセージはそれぞれの元に届かないかもしれないという複雑な状態で浮遊しています。送信と受信の中間にあるこの第三の状態は、力強く詩的に飛びかう光線間のギャップといえるでしょう。

ライトの光はそれ自体メッセージを転送するための乗り物といえます。山口の街から見える現象は、サーチライトがベクトルを形成していく「光のスイッチ」の循環です。もしも誰もメッセージをキャッチしない場合、メッセージは山口の上空に無限に漂い続けます。また誰もメッセージを送信して参加しない場合、光は消え暗闇になります。

プロジェクトでは、現場でのサーチライトの動きの幅を測定することで、光がスイッチ・ノード(送信相手の光)のみに当たるようになっています。近隣の建物や人々、山に住む鳥たちを妨害することはありません。

この光のインスタレーションを体験していただくのに一番おすすめしたいのは、サーチライトの内側、飛びかう光の下に入っていただくことです。光はひじょうに低く飛びかうことで、皆さんの頭上に非物質的な「屋根」を形成するでしょう。重要なのは、この作品には特権的なVIP待遇の場所が存在しないことです。完全な視点や主観的な視点を誰も持つことがなく、その一部しか視野に入れることはできません。

このプロジェクトは、携帯電話が普及し、それぞれが携帯を通じてメッセージを送受信しコミュニケーションする日本の状況に注目しています。携帯電話によって、人々は空を飛びかう光を好きな場所に移動し眺めながら、メッセージを送受信しプロジェクトに参加することができます。携帯電話やサイトに設置されたローカル端末によって、人々が「アモーダル・サスペンション」に参加していくことは、このプロジェクトが受動的に体験するショーではなく、人々が関わることで成立し、そしてその複雑さを取り込んだ公共的な介入であることを意味しています。

ここにはカタルシス(浄化体験)も、なんらかの構築も物語性もありません…この作品は、音と光によるスペクタクルというよりも、公共空間に置かれた噴水にたとえることができるでしょう。

メッセージの結び目、情報の織物、空中でのメッセージのサスペンション、アトモスフェリック・フォトスフェリック(大気中の・光に覆われた環境)、オープン、参加型の、ポストカード、ノンリニア、非物語性、テンショナル・インテグリティ(張力による整合性)、メッセージ・タービュランス(メッセージの乱気流)、インターセプション(メッセージの横取り)、アザーセプション(他者による知覚).


コンセプトイメージ


実際の模様